取り扱い注意:科学のダークサイドを書くときは慎重に

竹内薫の薫日記より。「科学のダークサイドを書く」
http://kaoru.txt-nifty.com/diary/2009/05/post-cdb2.html
# 5/3 トラックバック追記。未だにトラックバックが良く分からない…と思ったら、編集画面の下の方に入力欄があった。
批判的な本はあった方が良いので書いて欲しい。でも、それはとても難しいものだと思う。
アカデミックな世界には「人格破綻者*1」が多いのは確かだと思うけど、不満や愛想がつきたこと*2をモチベーションにして本を書くと、ダークサイド告発本じゃなくて単なる愚痴本になってしまう。それはどうしようもない*3。そしてサイエンスの告発だとして書くのはいいけど、分野はたくさんあるわけで*4、分野ごとにおそらく問題点や不満の対象となるものは全然違う。特定の分野に固有の「(悪い)文化」のような問題点を、それが分野を超えたユニバーサルな問題点だとして書いてしまったら最悪だ*5。分野を超えてユニバーサルにあるものであっても、ごく一部の人をピックアップしてサイエンス全体が良く無いかのように錯覚させることがあるならばそれも問題だ。
「それが出来なければプロ失格だし」のように書いているけど、出発点が悪ければどんなに頑張っても良い物が出来ないことだってあるでしょう。「一部の科学者や大学教授たちの、人を人とも思わないような振る舞いにも、そろそろ愛想がつきかけている。」なんて書きながら出発したらろくなものが出来ないような、嫌な予感がしてならない。書いて欲しいとは思うんだけど、慎重に動いて欲しい。
以下、サイエンスライターやその本に対して、なんとなくいつも思っていること。
サイエンスライターがサイエンス的なことを書く時には一般向けに分かりやすく書く為に多少大雑把な表現を使う。それは当然で、不可欠だからって数式を多用しつつ一般向けの分かりやすさも残すのは無理だと思う。大雑把な表現にする際に情報は落ちて程度の差はあれ不正確になるのだけど、その時に一番本質的な部分を落としちゃってることがあったりするのが、多分残念なのだと思う*6。「高飛車で人格が破綻している」わけではないきちんと理解している科学者*7と組んできちんとした本に仕上げれば良いのにといつも思う。
あと、もう一つサイエンスライター関係で思うのは、むしろこっちの方が問題だと思うのだけど、アナロジーを濫用するケース*8。たとえば、標語的で表面的な理解だけを頼りにして、適用範囲外にまでアナロジーを持っていくケース。物理は基礎的な性質があるから、アナロジーのもととして良く引用されていると思うけど、たとえば本質的に非平衡なのに平衡統計力学・熱力学を使ってとっぴな結果を引き出してわーわー騒いでいたりするとアウト。また、論理と倫理は全然異なるものであるのに*9、もしくは社会的な倫理が問題となるスケールと物理で扱われるもののスケールは全然違うものであるのに、物理からアナロジーを引っ張って来て一つの判断基準のように扱うのもアウト。

本人のブログで反応があり、自分がちょっと良く無い/不十分な書き方をしていた気がするので、追記(5/4 27時頃)。
http://d.hatena.ne.jp/a-ki_room/20090504/1241459581

*1:まぁ、論理と情緒は相補的だろうから、当たり前かも?あと、多分アカデミックな方が揺らぎがでかい。

*2:本質的なダークサイドではなく、直すことは

*3:著者の名前が売れてしまっているからなおさら。

*4:理系と文系、理学部と工学部、物理と化学と生物とetc、素粒子と宇宙と物性、理論と実験、一人でやる人や共同研究を好む人、などなど。分野によって全然違う。

*5:だから、出来れば、「科学(者)のダークサイド」を叩きたいと思っている数人の科学者と接触しながら複数の視点を持ちつつ書いて欲しい。

*6:具体的にどこがいけないとかすぐには列挙出来ないけど、科学の解説記事的なものを見て積もり積もった印象をまとめて原因を推測するならば、多分不正確であることにあると思う。熱力学とか相対論とか。

*7:きちんと理解してない人だって多分たくさんいる気がするんだけど。

*8:アナロジー自体は大好きなので、濫用しないように常に自戒をしないと。

*9:論理が如何に正しいものであっても、出発点が倫理的にアウトなら導かれる結論は駄目なものにしかならない。倫理じゃなくてもOKで、たとえば物理の議論をするにも、出発点が物理的に間違っているならば導かれる結論は物理的にも間違っているものにしかならない。物理の場合には、物理的に間違っている結果を導いたとしても、その結果が多くのことを示唆しているというクリエイティブエラーを与えることもある。倫理の場合にも反面教師に出来るのならいいけど、論理が混じった瞬間に全てを鵜呑みにするような(わかってない)人が多いような印象がある。