邪魅の雫

邪魅の雫読了。
ページ数だけ見ると過去の作品の方が多いのだけど、読み応えというか重さのようなものはそれ以上に思えた。黒幕の目星は半分行かないくらいでついたけど、それでもディテールは分からない所が多々。全体的に楽しめた。こういう閉じてない複数の系での作品を読むと、巨大な密室状態の古めかしい館ものも良いなぁとも思う。
以下適当ネタバレ。作中の京極堂の台詞を良い用に受け止めて書く。
邪魅の雫とは思い込みを固定して邪な殺人へと誘う毒薬。殺して良い命など有るわけが無いと思いながら、誰かのために多くの人が勘違いをしながらも信念のもとに殺しをし、邪なその雫を用いた人物は探偵の「邪なことをするとー死ぬよ」という言葉の通りに皆死んでしまう。その一連の流れが連続殺人という大きな絵として描かれようとするのだが、この部分とあの部分が一貫していないなどと言って捜査をする登場人物の全員が迷走する。そもそも一貫したものがあるかどうかすらも分からないのに。
迷走の原因となっているのは、犯人が一人ないしは同一グループではないことと、多くの勘違いである。捜査員役や下手人は自分の周りで起きている事件をそれぞれの視点で見るのだが、それが先行する事件の内容とずれているがために勘違いが連鎖して起きている。また、その連鎖において「黒幕」は多くの嘘をつきながら自分自身も振り回されて行く。迷走しながら描かれた絵は大きな絵の全容は最終的に「黒羽織」によって、実はそれは偶然出来た巨大なコラージュのようなものであることが示される。勝手に皆が違う絵を書くがために総体としては何だか訳が分からなくなり、そもそも人によって見え方が違うのだと気づいた時にはドつぼに嵌っていた…そんな物語である。
終わり方が良いと思う。邪魅が落ちて雫を捨てることによりようやく涙を流せるようになる。勝ち負けでも善し悪しでもないのである。