世界は分けてもわからない

世界は分けてもわからない/福岡伸一 を読んだ。

  • プロローグと1章を入れ替えた方が読みやすいような気がする。
  • 死と誕生の定義。生物学的な定義と法学的な定義に違いが有るのは当然で、法学による定義の方が生物学による定義よりも生きている時間が長くなる事は無いと思う。
  • エントロピー増大則を間違えて使っているように思えてならない。平衡状態においてすら、外部とエネルギーをやり取り出来る系ではエントロピーだけで全てが決まる訳ではないのに。秩序が全て無くなるのならば、磁石も放っておけば磁石じゃなくなるという事だろうか。常に全体を見ているのならエントロピー増大則でいいけれど、エネルギーをやりとりさせながら、細胞壁やチャネルの両側に勾配を作り出そうとし続けている生命の、あるサイクルの一部やある組織の一部について議論しているのだから、そのある一部分に関してのみ議論をするのならエントロピー増大則ばかりを議論するのはどうかと思う。
  • パワーズオブテンという「専門用語」に違和感。でも、これはしょうが無い気もする。
  • 「消化の本当の意義として前の持ち主の情報を消し去る事」としているのは、言い過ぎかと思いつつも、何だか示唆的で面白かった。ただ、消化しやすいために十分小さくする…のではなく、それ以上に本当の意義として紹介するのなら、きちんと情報の言葉でもっと議論をすべきだろうと思う。移植時の拒絶反応と同じようなもの…かもしれないけど、これは別に情報とか他人とかじゃなくて、自分とは違う役割で分裂している細胞との間には必然的に壁が出来る程度の話になってしまう。そして、この場合には消化をすれば前の持ち主の情報が消えるかというのも分からない。
  • 最後の何章かが「ガン細胞の性質をATPのリン酸化酵素から調べようとして、うまく行ったように見えたけれどねつ造だった」という話に費やされている。部分だけを見ても分からないことの例として前半でヴェネツィアの女の絵の話がされているのだが、そこで出て来た治す術の無い病と結びつけて話を落としている。なんだか気持ち悪いというか、何を言いたいのかよく分からない。
  • 締めの言葉が「世界は分けないことには分からない。しかし、世界は分けてもわからないのである」なのだけど、これも何だか誤解を生みそうな表現だ。「世界を分ける事で見えてくる事はある。しかし、世界を分けたからと行って何でも分かるという訳ではない」くらいにしないと本全体の着地点がぼやけてしまうと思う。せっかく治す術の無い病の絵や、パワーズオブテンの話をしているのに、ばらばらのまま終わってしまったように思う。素材は素敵*1なコース料理なのに、器とのバランスや調理法や出す順番がこんがらがっているような、そんな味わいの読後感でした。

*1:別に高級であることを意味しませんよ。