研究者とサイエンスライター

一昨日の
http://d.hatena.ne.jp/a-ki_room/20090502/1241214159
に対して本人のブログで反応があった。まさか反応があるとは*1。何だか良く無いタイミングで良く無い書き方をしてしまった気がする。僕は彼*2がテレビに映っているのしか見たこと無くて*3、本は何冊か読んだことはあるが、何だか負のイメージしか抱いていないのは事実だけど、やっていること自体は大事だと思っている。そして、自分が言っていることは中傷ではなくてあくまで批判だと思うし、影響力の大きい人は常に批判を受け続けるべきだと思う*4。繰り返しますが、やっていること自体は大事だと思っているし、本が出たらきっと買います。あまりマジになられないよう。少なくとも朝4時に書くというのは不健康な気がします*5
でも、『かなり手厳しく「反論」しておいたけど』というのがどれなのかちょっと分からない*6。「敵」認定されてしまったけど、まぁそれはよくて、でも多分一昨日のやつだけだと不十分だしアンフェア*7な気がして来たので、
「薫日記 裸の王様」 http://kaoru.txt-nifty.com/diary/2009/04/post-a2a9.html
を挙げつつちょっとコメント。
引用されている、若手研究者の
×「研究者がみんなサイエンスライターとなれば、サイエンスライターはいらない」
という発言は僕も間違いだと思う。それは
×「研究者がみんな英語を使えれば、英語のプロ*8はいらない」
というのと同じくらい間違い。
○「研究する上で英語を使えることは必要である」
○「研究者がみんな英語を使えれば、研究発表の場においては十分」
が正しいと思う。これは研究以外の場においても十分な英語力を持っていることは意味しないが、研究者は研究発表以外の場において英語を使わなくても、まぁ多分なんとかやっていける。極端に研究者目線に立ったとしても、研究以外の場*9において十分な英語力を持っているプロが必要なことは言えると思う。

同様に、極端にアカデミック目線に立ったとしても、サイエンスライターが必要なことは言える。サイエンスライターが持つべきスキルの一つは、相手(特に対象とされているのは一般科学書を読むような人かな)が分かるように分かりやすく表現出来ることであると思う。研究者が研究の場において分かりやすく表現するだけだったら、
○「研究者に説明する上で十分なくらい分かりやすく表現出来るのならば、研究発表の場においては十分」
○「研究する上で英語を使えないといけないのと同じ位に、研究発表する上で分かりやすく表現するというのは必要とされている」
であるけど、実際は研究以外の場において十分に分かりやすく説明出来るとは限らない*10。少なくとも、プロのライターと同じくらいに言葉を操ることは無理だろう*11。もしも
×「研究者がみんなサイエンスライターになれば」
という前提がクリア出来るんだったら、それでも良い。だから「研究者がみんなサイエンスライターとなれば、サイエンスライターはいらない」は論理的には合っていると思う*12。ただし、出発点が間違っている場合、論理が正しければ常に間違った結論になるわけで、この場合にも、実際にはそんなことは出来ない…というか非現実的。試しに対偶をとってみれば、
○「サイエンスライターが必要なのは、研究者がみんなサイエンスライターになることは出来ないから」…(A)
となる。これは論理的にもOKだし、出発点も合っていると思う。脱線すれば、プロのライターになるのに十分なくらい訓練する暇があったら研究したらどうでしょうか、という話になる。ともあれ、(A)があるからサイエンスライターは必要だ。

ラディカルな人だと、「一般人に説明なんてする必要無い、お金さえ流れればいい」という人もいるかもしれない。一般人に説明する必要がなければ、研究以外の場で分かりやすく説明する必要は無い。しかし、研究者、特にアカデミックの研究者には、責任が伴うようなお金が流れているわけで、一般科学書を読むような人*13への説明責任がある*14

一旦まとめると

  • 一般人に分かりやすく説明するのは必要で
  • そのスキルを研究者全員が十分に会得するのは無理だから
  • サイエンスライターが必要となる*15

ということになる。

ここまでは良い。

僕が思っていることは、研究者だけでは一般人に研究内容を「分かりやすく」説明出来ないように、サイエンスライターだけだと一般人に研究内容を「本質を抑えながら」説明出来ないということ。だから、

サイエンスライターがサイエンス的なことを書く時には一般向けに分かりやすく書く為に多少大雑把な表現を使う。それは当然で、不可欠だからって数式を多用しつつ一般向けの分かりやすさも残すのは無理だと思う。大雑把な表現にする際に情報は落ちて程度の差はあれ不正確になるのだけど、その時に一番本質的な部分を落としちゃってることがあったりするのが、多分残念なのだと思う。「高飛車で人格が破綻している」わけではないきちんと理解している科学者と組んできちんとした本に仕上げれば良いのにといつも思う。

と思う。研究者とサイエンスライターという全然違う人が協力して一般向けの解説を作ろうとするのなら、何度も「喧嘩」したり互いに「怒ったり」「不満を感じたり」しながら、ぶつかり合いながら一番良い場所を模索していけば良いと思うし、それしかないと思う。重要なのは、きちんと互いの順番を設定して、相手が文章を触っている時は自分は触らないということ*16。相手に渡す時に変更点について議論をする。何度も何度もやり取りを繰り返す中できちんとした落としどころへと収束していく*17。不適切なアナロジーがあればその中で修正されるだろうし、もっと良いアナロジーが見つかるかもしれない。特殊なことを普遍的に書くような間違いは防げるだろうし、普遍性を説明するための分かりやすい例が見つかるかもしれない。

当然、

残念なことに、日本では、論文調の特殊な日本語しか知らない科学者に、「あなたは一流の科学者だが・・・」と言ったとたん、「そう、だから私は一流の作家(ライター)でもあるのだ」と言われて終わり、ということが多い。

のような傲慢な態度は良く無いと思うのだけど*18、これはどうしたもんかね*19。研究者とかライターとか別にして、如何なる場においても何か話し合いをする時には対等の目線に立つのが大事なのに*20。でも、こうなると数が少ないサイエンスライター側が不利だけど、その場合の処方箋としては、「どんな時でも話し合いの時には丁寧/真摯に接する」ということが挙げられると思う*21。どんなに丁寧/真摯に接しても駄目だったら、無視するしかないと思う*22。非常に残念ながら。

まぁ、一応書いてみたけど、正直、一大学院生がどうこう言ってどうなるわけでもないと思う。理解のあるアカデミック側の大御所が必要だ*23。まとまりがないけど*24、とりあえずこんな感じで。

もう一度、無理矢理まとめると

  • 一般人に分かりやすく説明するのは必要で、そのスキルを研究者全員が十分に会得するのは無理だから、サイエンスライターが必要となる。
  • アカデミックの人は傲慢すぎないように。サイエンスライターの人に合わせて分かりやすくするのは大事だけど、常に本質を見失わないように修正を。修正が出来るのはあなただけ。
  • サイエンスライターの人は、傲慢すぎる相手*25であっても丁寧に接すること*26。無理だったら思い切って無視するか、一旦距離を取るしかないかな。本質を見失わないための注意は研究者側に任せつつ、自分は一般人目線*27に分かりやすく。プロとして分かりやすく出来るのはあなただけ。

ということになる。

最後に、一個だけ思いついたことを。
日本人英語のカン違い ネイティブ100人の結論 (レクシスシリーズ) (単行本)という本を、Amazonで欲しい本がないか物色していたら見つけた*28。ここから連想したのだけど、「ふつうの人が科学や論理についての勘違いしていると思うこと」を科学者100人くらいに聴いて回ってまとめたら面白いんじゃないかな*29。意見を述べる側の勘違いが、どこかに一貫していない部分として出て来て楽しいと思う。如何にお偉いさんだとしても*30、一まとまりのデータ*31に一貫性が無い部分があれば反応するでしょう。

*1:目にちょっと止まりでもすれば僥倖だと思っていたけれど。

*2:人柄が分からない人にさんづけで呼称するのは嫌だし、この文脈で呼び捨てにするのも何だか嫌なので、彼、で。

*3:コマ大は好きだけど、最近見ていない。HDDレコーダー欲しい。

*4:ここのところ、「声の大きい人や組織」の弊害について考えさせられることが続いていたので、その流れで良く無い書き方かもしれません。

*5:…昼まで作業していた翌日に言うのも何ですが。

*6:どんな反論されたの?なんてメールが飛んでくる始末(笑)

*7:というと、やけに偉そうだけど。

*8:職業翻訳者とかかしら。

*9:当然、こっちのがメジャー。

*10:というか、研究の場ですら分かりやすく説明でき…おや、誰か来たようだ。

*11:研究以外の場に置いても分かりやすく表現するための努力をアマチュアレベルで磨くことは重要だと思う。

*12:ちょっとトビあるけど

*13:読まない人でもいいけど。まぁ、説明を受けたいと思う人、とまとめることが出来るか。

*14:核融合とかどうなんでしょね。

*15:一般人への説明以外にも、「分業」が可能で分業すべきことはたくさんあると思うんだけど……。そういうのって改善されないのかな。

*16:これが相手の立場を尊重することになるのでは。

*17:これって良く聴く所の共著論文の書き方と一緒じゃないか。

*18:ふと、しばしば思うのだけど、こういう人って研究楽しいのかな?

*19:中には一流のライターでもある人はいると思うけど、どれだけいるのか。

*20:理想論と言われそうだけど。でも、一番合理的。

*21:ダークサイドにダークサイドで立ち向かうようでは駄目だと。…こういうこと言うと、ルークは皇帝にぼろ負けしてるじゃないかと言われそうだけど。ダースベイダーなしにはどうにもならなかった。

*22:無視されちゃうかもしれないけど、それは説明責任を果たさないことに対する罰則が無ければどうにもならんかな。

*23:言うならば、これがダースベイダーか。

*24:まとめるほどの時間がないorいくら時間をかけてもまとめられないかも。本当は簡単な例や小話でも挟みながら説明した方が良いんだろうが。

*25:そしてそれがメジャーなのが問題なんだけど。

*26:他に良い対人交渉術があればいいけど。

*27:サイエンスライターですら一般人の間にも多分ずれはあるんだろうけどなぁ…。むつかしい。

*28:読んでないけど。ちなみに、http://www.amazon.co.jp/dp/401052670X/

*29:「基調講演」として数人をピックアップして先にその原稿をみんなに読んでもらいながら意見を集めたら楽しいような。

*30:いやお偉いさんだからこそ

*31:本人の行動(研究以外)に一貫性が無い人の話は結構良く聴く。でも、これは研究者に限らない気がするな。